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わらび新聞

蕨歳時記バックナンバー No.9 一覧に戻る 1 2 3 4 5 6 7 8 9 

【蕨歳時記】 (復刊81号)
バス停に羅漢居並ぶ小六月

11月も半ばを過ぎるとめっきり冷え込んでくる。木枯らしが吹き、時雨が降ったりして、暗くて寒い日が続く。それが数日続くと、突然真っ青に晴れ上がり、ぽかぽかした日が訪れる。日本列島が移動性高気圧にすっぽりおおわれるために起る現象で、まるで春のようだというので、こうした陽気を「小春日和」と言う。春どころか、まるで初夏のようだという気分で小六月と言うこともある。

出勤のお父さんや登校の子供たちを送り出したお母さんは、待ってましたとばかりに掃除、洗濯、布団干しなどに忙しい。中には素早く家事を片付けて仕事や買い物に出かける大忙しのお母さんもいる。暇なおじいさん、おばあさんも数日振りに顔をのぞかせたお日様につられて外出する。

バス停にはそういうお年寄りがいっぱい。ベンチに腰掛けているお年寄りたちの顔には、それぞれの年月の皺が刻まれている。苦しい修行を切り抜けて安穏の境地に達した幸せな顔もあれば、病やその他もろもろの苦しみから未だ抜け出せずにいる顔もある。なんだか五百羅漢が並んでいるみたいだ。

(大澤水牛、ペン画・丸山敏雄)

 

【蕨歳時記】 (復刊82号)
賞味期限偽る老舗冬の雨

初冬の11月に降る雨はさーっと降って上がる通り雨のようで、ある種の趣も感じられて「時雨(しぐれ)」という季語になり、古来数々の名句がある。これが12月になると、降る雨もしとしとと長く続き、しかも寒い。いっそのこと雪になってしまえばそれなりのあきらめもつくのだけれど、暗く寒い空からいつ止むとも知れぬ冷たい雨が降ってくるのはやりきれない。

今年の晩秋から時雨、冬の雨の候にかけて、「嘘つき事件」が相次いだ。お伊勢参り名物の赤福餅が賞味期限のラベルを貼り直していたことが判明して大騒ぎになった。と思ったら、ライバルの餅屋も同じことをやっていたことが分かってまた大騒ぎ。北海道の有名な洋菓子屋のチョコレートでも同じようなことが明らかになった。そうしたら、最高級(?)と言われる日本料理屋吉兆までが牛肉の産地を偽っていたとあって世間は唖然とした。

どうしてこんな具合になってしまったのだろう。老舗の看板を張る人達の気概が薄れてしまったせいなのか、老舗のラベルに盲目的に従うバカな消費者が増えてしまったせいなのか。

(大澤水牛、ペン画・丸山敏雄)

 

【蕨歳時記】 (復刊83号)
手のひらに焙じ茶のあり寒の夜

1月6日の小寒(寒の入り)から21日の大寒を経て、2月3日の節分までを「寒の内」とか「寒中」と言い、寒さが極まる時季とされている。

ところがこの数年、暖冬続きで様子がおかしい。寒の真最中だというのにコート無しで外を歩けるし、若者などは上着も着ないで盛り場を闊歩している。特に平成19年暮から今年の正月松の内にかけては3月のような陽気が続いた。

私たちの住む地球は数百年単位で温暖期と寒冷期を繰り返しており、現在はその温暖期に入っているのだから、暖かい冬いなるのも不思議ではないという。ただ今回の温暖期は、温暖化するスピードが早過ぎるのが問題とされている。18世紀末の産業革命以降、二百数十年、石炭や石油を大量に燃やし、森林を伐採して来たツケが回って、大量の二酸化炭素排出によって温暖化が加速されたのではないかと言われる。

これはひょっとすると人類滅亡の前兆かなどと、とんでもない妄想が頭をよぎる。熱い焙じ茶の湯呑を両の手のひらで包みながら、個人で出来ることは節電とゴミの分別くらいだけど、これでも何かの足しになるかしら・・・。

(大澤水牛、ペン画・丸山敏雄)

 

【蕨歳時記】 (復刊84号)
やはらかき雲の遊びて風光る

暖かいお正月だと思っていたら、やはりそのまま春というわけには行かず、2月3日の節分は雪、1週間たった9日もまた雪となった。暦の上ではもう春なのだが、かえって寒い日が続く。

寒いのは苦手だし、雪が凍った朝などは足もとが危なっかしくて、外出も億劫になる。しかし、寒暖の変化があればこそ気分も変わる。

シンガポールからの友の便りでは「こちらは今日もTシャツに半ズボン、咲いている花も年中同じ。やはりこういう所では俳句は作れませんなあ」

雪もすっかり溶けた11日は建国記念日、その昔の紀元節。朝から晴れ上がり、青空にはふわふわと雲が浮かんでいる。柔らかそうな春の雲だ。吹く風はまだ冷たさを感じるけれど、春の陽射しを受けてあらゆるものが輝いている。小鳥たちも早朝からにぎやかに囀っている。

「風光る」という季語の感じをしみじみと味わう。

(大澤水牛、ペン画・丸山敏雄)

 

【蕨歳時記】 (復刊85号)
税務署の行列長しよなぐもり

3月は確定申告。給与所得だけのサラリーマン家庭にはほとんど関係が無いが、家を建てたりマンションを購入したり、雑収入があった翌年はそれに関連の税務申告が必要になるし、前年の医療費を申告して所得税の還付を受ける人もいる。というわけで、この時期になるとかなり大勢の人が税務署に出掛ける。

申告書類は昔に較べると分かりやすくなったとは言え、まだまだややこしい。相変わらず「お役所流」の回りくどい説明書きを読むだけでも一苦労。なんとか記入したけれど、果たしてこれですんなり通るものなのか、一抹の不安もある。そんな表情の人たちが税務署の前に長い行列を作っている。

時あたかも春の不安定な天候。北西の季節風に乗って遥か中国大陸から砂塵が運ばれて来る。「黄砂」である。黄砂で空がどんよりと曇るのを、俳句では「よなぐもり」と言い、春の季語としている。

この忙しい最中に、国民の義務とは言え書類提出に長い時間がかかるのはやりきれない。こうして庶民から取り立てる税金を無駄遣いされたのではたまりません。そんなことを思いながら黄砂に曇る空の下、順番が来るのをじっと待っている。

(大澤水牛、ペン画・丸山敏雄)

 

【蕨歳時記】 (復刊86号)
税務署の行列長しよなぐもり

春は天気が定まらない。満開の桜を無残に吹き散らす強い風が吹いたり、ぐずぐずと冷たい雨が降り続いたり。そうかと思えば急に夏の気温になったりする。

これは日本付近を移動性高気圧と低気圧が頻繁に通り過ぎるために起る現象だという。低気圧に向かって雨雲を背負った風が吹き込み、時には雷を伴って強い雨風が見舞う。これを春嵐とか春疾風(はるはやて)などと言う。上空に雨雲が無い時には砂塵を巻き上げる強風が吹きすさぶ。

低気圧が通り過ぎてしまうと移動性高気圧におおわれ、空は真っ青に晴れ上がり、心地よい春風が頬を撫でる。こうした急激な天気の変化が三、四日を周期に何度か繰返され、やがて初夏を迎える。

時あたかも新学期。小学校一年生にはわくわくどきどきの時節である。近ごろの公立小学校は制服制帽のないところもあるようだが、さすがに新一年生はぴかぴかのランドセルに学帽という子が多い。もうすっかりお兄ちゃん、お姉ちゃん気取りで付き添いのお母さんの手を振りほどいて駆け出したりするが、思わぬ突風に帽子を飛ばされてべそかいているのも微笑ましい。

(大澤水牛、ペン画・丸山敏雄)

 

【蕨歳時記】 (復刊87号)
税務署の行列長しよなぐもり

JRの駅などで最近よく「コンコース」と書かれた表示を見受ける。英語のconcourseをそのままカタカナ語にしたもので、老人はもとより若者だって正確な意味を知らない。

もともとは人や物の集合、また集まる場所を意味し、そこから中央広場、公園の真ん中の広い場所、さらには駅や空港などの真ん中の大ホールや通路を指すようになった。東京駅の中央通路がさしづめコンコースと言えるのだが、何もわざわざ英語を使うまでもないような気がする。

蕨駅は橋上駅になっており、東西出口を結ぶ通路がコンコースに当る。品川駅や上野駅はこの橋上コンコースがやたらに広くなって、食堂や喫茶店、コンビニが密集し、ちょっとした商店街顔負けである。近ごろは地下にこうした通路が出来ている駅も多くなった。

便利になったことは確かだが、日の射さない場所だから息がつまり、作り物の街という感じがする。橋の上の通路だと窓はあるにしても地に足がついていないから、どうも落ち着かない。コンコースなる人工の街を通り抜けて地面に下り立つと、五月の太陽がさんさんと降りそそぐ。やはり自然はいいなあと思う。

(大澤水牛、ペン画・丸山敏雄)

 

【蕨歳時記】 (復刊88号)
かたつむりまた長雨を呼ぶつもり

今年は梅雨入りが早く、関東甲信地方は六月二日だった。これは平年に比べ六日早く、去年と比べると二十日も早いという。昔の暦には季節の移り変わりを知らせる二十四節気というものがあった。今でも「春分」「秋分」とか「夏至」「冬至」「立春」「立秋」などが使われている。その中に「入梅」というのもあるが、今年は六月十日とされていた。それと比べても今年の梅雨入りは八日も早かった。

梅雨はじめじめとして鬱陶しい。梅雨明けは通常七月二十日頃だから、今年はもしかしたら異常に長い梅雨になるかも知れない。梅雨に付き物と言えばカビ。昭和も五十年代までは、梅雨の季節は大変だった。食べ物にはすぐにカビが生え、掃除が行き届かない家具の裏などにも生じて、家中が黴臭くなった。エアコンが普及し室内の湿度調節ができるようになり、冷蔵庫も全世帯に普及して、少なくとも家の中ではカビとは無縁になった。

身体がだるくなる何とも嫌な季節だが、草や木や虫たちは逆に生き生きとする。稲も野菜もよく育つ。木の枝や垣根にはカタツムリがさかんに這い出す。角を伸ばして頭をもたげ、えらく威勢がいい。また雨の気配を感じ取っているに違いない。

(大澤水牛、ペン画・丸山敏雄)

 

 

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